風狂伝
Egg-man disk ECD-3001 2,718円(税抜)
音楽をやる男の人たちが、年を重ねてきたことの中でもっともほこらしく、いい部分が全開だ。それぞれの音楽史と個性と高度な技術が、お互いを消さずに鮮やかに混じりあっている。何よりもよっちゃんの歌の天才よ! のびやかで色っぽく、楽しげで切ない。この声を聴いているだけで希望が湧いてくるようだ。おまけによっちゃんの濃い、濃い色を包み込む様々な試みときたら! 久々に「金損した~」と思わなくていい日本のCDを聴いた。(吉本ばなな)
●収録曲目
- DO THE TARASCON
- 風狂伝
- 大航海時代
- マラスキーノ伯爵の大快楽園
- アニトラの踊り
- 君の心のSAD MONKEY
- SUNSET MOTEL
- ジャージー・ロージー
- ままよ、さばさーれ
- 今は昔の僕じゃない
- 屋根裏アンファン
- 青空のチリアクター
MEMBERS
伊藤ヨタロウ…Lyrics, Vocals
光永巌…Bass, Guitars, Vocals
石坪信也…Drums, Bodhron, Vocals
ライオン・メリィ…Accordion, Keyboards, Vocals
田村玄一…Guitar, Banjo, Pedal steel, Vocals
横川理彦…Mandolin, Violin, Vocals
PRODUCED BY 横川理彦
『風狂伝』曲解説(作詞はすべて伊藤ヨタロウ)
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DO THE TARASCON
(作曲・横川理彦)
ティン・ホイッスルの響きが美しい。南フランスでユーゴスラビアのブラスバンド(ほとんど2ビートでランバダとかやっていた)を見たのが作曲の動機でした。ゲスト・コーラスは元ザバダックの上野洋子さん。村祭り的要素と叙情がからまりあって、新生メトロの旅立ちにふさわしく、象徴的。
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風狂伝
(作曲・田村玄一)
メトロファルスにおける玄さんのデビュー曲。ラテンな性格がよく表れている。ソプラノサックスは、ティポグラフィカの菊地くんで、中近東度がぐっと増した。“風狂”を風流を強く求める人ととるか、キチガイいととるかは、聴く人次第。
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大航海時代
(作曲・横川理彦)
もとのコンセプトは「沖縄音階とニューオリンズ・ビートを合わせよう」ということだが、アコーディオンやらペダル・スティールやらで余計な情感が加わりまくって「ゴジラ、モスラにエビラもいるゾ」といった南海の大決闘めいた怪しいゴッタ煮になっている。
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マラスキーノ伯爵の大快楽園
(作曲・伊藤ヨタロウ)
すごい題名。演奏内容も、それに劣らずすごい内容で、イントロからエンディングまでことごとくトゥー・マッチな力作である。歌詞と、それを表現するエフェクト音(まんまやないの!)が、我がちに吠えたて、ゲンスブール気取りの“ペテン師のシャンソン”世界が立体的に浮かび上がる。
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アニトラの踊り
(作曲・グリーク)
『ペール・ギュント』の中のこの曲をジプキン的解釈で演奏しようとライオン・メリィのアイディア。リズム・セクションも手拍子も良かったが、なんといってもメリィさんのタブラ、カスタネット、アフリカ風の革付きタンバリンが秀逸。野卑なコール&レスポンスが、いかがわしさとあらくれ度を増している。
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君の心のSAD MONKEY
(作曲・横川理彦)
グランド・ピアノの上に横たわり、スペイン語で「ママ、あたし何処行っちゃうの?」と囁く妖しい女・・・・ゲストに映画『トパーズ』の主演女優(!?)二階堂美穂を迎えてのエロチック・サスペンス。都会派ニュー・ジャック・スイングだったこの曲も、やはり謎の南海モノとしてリ・アレンジされた・・・・なんてことは全く忘れてしまう程耳元で囁く美穂嬢の声が大きい。「二階堂、でかいどう」ってくだらねぇギャグが流行った。
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SUNSET MOTEL
(作曲・ライオン・メリィ)
(モーテル“黄昏”)レコーディングも終盤戦、きっちりした録音にやや飽きて、スタジオ内でステレオ・マイクを立てただけの一発録りをしたもの。タイトルは、情事の後の倦怠、メトロ風『パリ・テキサス』といったイメージからか。哀愁のペダル・スティールと、間抜けな6弦バンジョーの組み合わせがナイス。
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ジャージー・ロージー
(作曲・伊藤ヨタロウ)
昨年、リヨンの知り合いのレストランにて生録音。ボーカル・アンプがあったのがせめてもの救いだが、居合わせた客たちは飲み食いとお喋りに夢中で演奏にはほとんど反応無し。やはりヤポンスキー・ヴォードビリアンのどどいつ煮マイナー・スイング風味は口に合わなんだか・・・・食事とワインがおいしかったからいいけど。
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ままよ、さばさーれ
(作曲・田村玄一、横川理彦)
もとは正統的なアイリッシュ・トラッドを目指すハズが、ゴエモン((c)コナミ)のような三味線のりになってしまった。ハナ肇に哀悼の意を表したのだが、全員笑気ガスを吸っているかのような演奏やコーラスが凄まじい。タイトルは“えいっ、ままよ、どうにでもなれ!”というつもりらしいが、正確には古語で“さばれ”或いは“さもあらばれ”で、作詞者のいい加減な性格からくる造語といえよう。
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今は昔の僕じゃない
(作曲・光永巌)
本作の歌世界には、死を匂わせるものが随所にちりばめられているが、これは葬儀で歌う霊歌、讃美歌を意識して作った。でも、暗くないぞ。ライブではXTC風の演奏だったのだが、録音にあったって横川が全面的にアレンジしなおしてアコースティック・ヴァージョンとなった。玄さんのカリンバが天国の響き。GUNちゃんのほとんどノー・エフェクトのボーカルが聴きもの。
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屋根裏アンファン
(作曲・伊藤ヨタロウ、横川理彦)
次回作に収録予定の「宇宙アンファンテリブル」の短いインスト・ヴァージョンを予告編として挿入。ヨタロウ宅でアレンジを考えていたときのラジカセ録音。乱入してきた甥(4才)の意味不明な言葉も含め、雰囲気が非常によいので採用されました。
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青空のチリアクター
(作曲・光永巌)
ヨタロウが山本周五郎『虚空遍歴』を読んで触発されたらしい。「ものをこさえる人間のバイブルだ!」などとうそぶいていたわりには、その後の生活態度は相変わらずで、およそかけ離れたものである。前半はブリティシュ・トラッド風味でリチャード・トンプソンを思わせるが、中盤のおフレンチ3拍子セクションは何?仮題が「飛行場」となっていたのもうなづけます。
by 横川理彦、伊藤ヨタロウ