みんなの宝物レーベル MT-0005

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スラッピィ・スティッキー/タイツ

1  モンキー・ロリータ----------4'43"
2  五月病----------3'41"
3  ファー・イースト・マン----------6'40"
4  愛情のビーカーとフラスコ----------3'50"
5  エラー----------4'57"
6  水と泡----------5'00"
7  運命がよんでいる----------2'54"
8  ポルノグラフィック----------3'38"
9  ノンジャンルのクラウン----------5'16"
10 真冬のナイチンゲール----------5'03"
11 RUN-SAW SAMBA----------4'22"
12 スラッピィ・スティッキー----------1'19"


いただいたお言葉

『ロニー・レーンは死んでも、

一色進は、病気がちながら生きているのが素晴らしい。

「FAR EAST MAN」なんて、メロディとてもすばらしそう。

そう、一色が唄うと「らしそう」ということが、

前面に出て、ミステリアスなんだ。

女性のドラマーそしてボーカルが入って、

みかよ滋田がいたころのタイツを思い出したりもするが、

サウンドと詩は、確実に今のものだ。

おねがいだから、全員がボーカルをとっていってね。

このアルバムのカルト性、ポップ性、フィクション性、リアル性は、

まさに、R&R指定だ。』

鈴木慶一

『一色進は、遺書をしたためる心積もりでこのアルバムを作ったという。

本当に血を吐きながら...

そんな真摯で山師な姿勢を俺は見習いたい。

一体、どんな運命が呼んでいるというのだ...。』

小っちゃなロフトのジャンルなき道化師より

伊藤ヨタロウ

『バラエティ満点。

すみからすみまで楽しめました。

あいかわらずのポップやくざな音に敬服します。

一色さんのくずれ具合はレイ・デイヴィスを越えてタイニー・ティムって感じ。

そしてガンちゃんのベース最高。

でーす。こんどライヴいくよー。』

直枝政太郎(カーネーション)

『タイツの言葉は、どうでもいい言葉が多い今日このごろでは珍しく、

ちゃんと耳をかたむける価値があるものだと思う。

そうすると、自分の中にまだ生きていた豊かな、

質の高い情緒に、また出会うことができる。

こんなきつそうに見えても、

もしかしてまだ世の中は美しいところかも、と思うことができる。』

吉本ばなな

一色進ニューアルバムを語る

スラッピイ・スティッキーな話

 戯曲っぽく始めるとすれば、それはたぶん松田信男の家で、いつかは忘れたが、私と松田がなにかのデモを作っているときだ。松田が、相変わらずちんたらと作業をしてる私に業を煮やしたのか、比較的マジな顔で、こう切り出した。
 「一色さん、タイツはさぁ、せっかくすごくいいバンドなんだからさぁ、もうちょっと売れようよ。いつまでも今のままだと、続けられなくなっちゃうよ。」
 「売れようよ、って言われてもなぁ、どうしたもんか。」
 私はそう言いつつも、タイツのメンバーにこんな事を言われたことがなかったので、少し新鮮な気分だった。
 だいたい、松田が加入する前のタイツは、一色進、光永巌、宮崎裕二という、当代一、二の才能にめぐまれてるかもしれないのに、あつまりゃ飲んじゃ、くだらないことをどれだけ言えるかを競い合い、そして明くる日にはなにもかも忘れてる三人が、やりたい事をやりたい放題やるだけやって帰っていく、天災のようなバンドだった。いくら芸術は創造と破壊といっても、タイツはゴールデン・ポップ・バンドなのだ。曲もあれば、詞だってあるのだ。しかもいい曲といい詞なのだ。と、ここまで書いてて、まあなんていうか、自分でよくいうよ、とも思うが、あまり誰も言わないので続けちまうが、破壊のパーセンテージが高すぎて、はっきり言って一見さんには、なんだかよくわからないのだ。しかし、本人達の性分で、簡単に解られてたまるかみたいなところが、レコーディングになると特により一層顕著になって、一部のマニアの嗜好品と化していくのだ。特に、前作の『ハード・ボイルド・アルバム』は、狂ってる。マッド・サイエンティスト役の私は、加入したての松田信男をも巻き込んで、プログレか? って位込み入った曲を、まだかぶせるかっていう程の音をかぶせ、まわりを呆れさせることに成功した。
 そして、最初の松田の台詞にたどり着くのだ。そしてこの「スラッピイ・スティッキー」が動き出した。売れるとか、売れないとかは、神の領域なので、考えても仕方のないことなのだから置いとくとして、開かれたタイツのアルバムというのも悪くないな、とその時思ったのだ。分かりやすく言えば、いままでのタイツが「聞けば?」って感じだとすれば、新作は「聞いて!」って感じにしようと思ったのだ。そして、小林みな子が新ドラマーとしてやって来た。彼女のドラムが、このアルバムを一層開かれたアルバムへと導いてくれそうだ。そんなコンセプトの中で、私が作った新曲が「RUN-SAWSAMBA」(タイツのオリジナルのなかでも最高にいかれてる)なのだから、この病気は治らない。それで、和久井光司氏にプロデュースをお願いした。そしていくつかの約束事を作った。演奏は基本的に4リズム。オーバー・ダビングは、極力避けて最小限に止める。入れたいフレーズは、声で入れる。テーマは、声・声・声。あと、ちゃんと唄う。
 そして1996年の2月26日、目黒のVANRYUJI STUDIOでレコーディングが始まった。それはそれは長い長いレコーディングが。永遠に続くのかと思った。そして約束事は少しずつ破られ、1997年7月出来上がったタイツのニュー・アルバムは、タイツのニュー・アルバム以外の何物でもないのだ。

一色進による曲解説

1:モンキー・ロリータ

ドンキー・コング(スー・ファミ)をやってた時に、ドンキーが樽を追いかけてるのを見てて、サビ前のリフができた。そしてその勢いでいかにもタイツなサビが生まれた。
 夏にキャンプに行った時に、ラジカセで聞いたミカ・バンドのベストが、あまりにもカッコ良くて、クリス・トーマスとミカ・バンドの出会いなんていう事が起こりうるこの世の素晴らしさに、座布団を捧げるつもりで、のこりを書いた。みな子のコーラスが、いきなり新風を呼んでいる。

2:五月病

 『ハード・ボイルド・アルバム』が出たすぐ後ぐらいに、松田がこの曲を持ってきた。
この曲がヒントになって、このアルバムのコンセプトが私の中で出来上がった。
 それは、「病気」。ん~安直だが、そう思ったのだから仕方ない。「スラッピィ・スティッキー」には、世紀末の病んだ惑星を舞台にした歌が並んでる。そして私も病んでいる。松田は、この曲を初期のキンクスの様なハードなブギにしたかったのだが、私はセイラーのようなトラッドっぽい感じにしたかった。そして綱引きの綱は、絶妙の場所に落ちた。

3:ファー・イースト・マン

病んでる星と、そこにすむ呑気な住人の歌。この世にワイド・ショーぐらい下らないものはない。それを喜んで見てるオバチャンや暇人から、選挙権を取り上げた方がいい。去年、一昨年とアンソロジーが出て、街にビートリッシュな音楽があふれて、ちょっとうんざりしてたころに、この曲は生まれた。60年代も嫌いじゃないが、私が愛して止まないのはもう少し後のイギリス。ロキシーや、10cc、コックニー・レベルあたりから、パンク、ニュー・ウェーヴの嵐が吹き荒れたころに、吹き飛ばされたバンド達が愛しい。あぁ好きだ。そんなこんなな曲だ。いまだにビートルズごっこをやってるあほうには、くににかえってもらおう。

4:愛情のビーカーとフラスコ

 みな子さんのご懐妊を記念して、この子守歌を贈呈した。プロモ・ヴィデオを作るとしたら、みな子がこどもに乳をあげてて、あまってる方の乳を、残りのメンバーが狙ってるっていうのはどうだろう。それにしてもこのアルバムのレコーディング中に、みな子は出産をし、光永はバイク事故で両手を骨折、私は離婚をした。島倉でないが、人生いろいろだ。歌詞は、ホモサピエンス・サピエンスの池亀氏に書いてもらった。彼らのファーストの「地球最期の日」の素晴らしさに感動した私が、タイツにも書いてほしいといって実現した。タイツのアルバムにメンバー以外の詞が登場するのは、今回が初めてだ。

5:エラー

 メジャー・セヴンのロックン・ロール。この美しさはいかがなものだろう。間奏のエレピのソロあたりの高揚感は、はたして何人の心に届くのだろうか。私がバンドをやめられないのは、こうした瞬間があるからだ。このドラマのヒロインを演じるのは、「列車はさよならを告げに行く」「カウントダウン・トゥ・ベッド・イン」など、タイツの作品ではおなじみの彼女だ。この架空の女優との腐れ縁は一生続く。

6:水と泡

 松田信男再び。松田の曲を聴いてスティーヴィー・ウインウッドを思い出すのは、私だけだろうか。この曲の真ん中のワン・コードのリフなどは、まるで「ジョン・パレンコーン・マスト・ダイ」のころのトラフィックのようだ。余談だが、このリフをギターで入れるか、オルガンで入れるかもめたときに、作者の意向に屈したオルガン派だった宮崎裕二が、アンプもエフェクターも通さずに、「チョクでいいよ、直で」といって、いきなり卓にギターをつないで弾きだした時の、絶句した松田の顔が忘れられない。しかし、そのテイクが、OKとなって盤に刻まれている。

7:運命がよんでいる

 ボサ・ノヴァです。どうでしょうか。タイツの場合、アコースティック・ギターといえば光永巌の出番なのだが、彼の手にはギブスが。そこで「かしてみろよ。」と、ギタリスト、エンジニア、プロデューサーと、かわるがわるマイクの前に登場しては、「テンポが。」とか、「コードが。」とかいいながら、ギターのバトン・リレー。そこで、松田みたび。難無く正統派ボサ・ノヴァ・ギターをきめ、「松っちゃん、ギターうまいじゃん。」という和久井氏の横浜弁で一件落着。光永はべつにわきで遊んでいたわけではない。この曲は光永のリード・ヴォーカル。

8:ポルノグラフィック

 やっぱりタイツはこーじゃなくっちゃって感じ。絵に描いたようなセメント・ポップ。みな子が、実家(長野)に帰ってしまったピンチを救ってくれたのは、「ちえぞー」こと須田千江子さん。彼女のセクシーでキュートなコーラスが、初期のタイツをほうふつさせる。彼女は、リットー・ミュージックのπレーベルのオムニバス「ガールズ・ワンダー」にもソロで参加しているのでチェックしよう。歌詞は、「パンストピア」を本屋で立ち読みしてるときに出来た。間奏のギターは、「うっちゃん(キャロル)みたいに弾いて。」と言った私に、宮崎が見事に答えてくれた。

9:ノンジャンルのクラウン

 人生はおおよそ辛い。誰だって、死んでしまおうかなんて考えるのは一度や二度じゃないのだ。そんなときにこの曲は、生まれた。当初私はこの曲を、このアルバムにいれるつもりではなかったのだが、親友の中野D児があまりにもこの曲をほめるので、入れることにした。レコーディングとは不思議だ。録りはじめてみると、たった2~3分で書いたこの曲が、タイツの数多い作品の中でも、貴重なものに変わっていく。この曲が私を救ったように、もしほかの誰かが救われたなら、それはD児に感謝しなくてはならない

10:真冬のナイチンゲール

 愛して止まない女がいるとする、私はインチキではあるが音楽家なので、それを音楽にしたがるのだ。そして自分では歌えないが、出来てしまった歌があるとすると、それはもう何をおいても宮崎の出番だ。私と宮崎は、かつてこのやり方で、「紅茶の温度」という成功をおさめているのだが、またしてもやってしまった。石原裕次郎と北原三枝が出会った映画「狂った果実」のモダニズムに、いくばくかは迫れただろうか。

11:RUN-SAW SAMBA

 アルバムのフィナーレを飾るのは、世紀末狂騒曲。今とタイツをつなぐ橋があるなら、それはこんな形かもしれない。したがってこれはただの悪ふざけではないのだ。奇跡とは、予測できないから奇跡なのであって、そんなものまであてこんでは暮らしてはいけない。でも種ぐらいは蒔いておこう、という発想の下に生まれたこの歌は、またしても最もクレージーなナンバーへと変身した。もう君とはやってられんわ、ほなさいなら。

12:スラッピィ・スティッキー

 別に巷の音楽がすべてNGだとは思ってないし、自分達が完璧だとも思ってない。
 でもね、ちょっとね、とは思っている。でもそれは所詮音楽の話だ。ましてロックの話だ。ただ、タイツのいない東京は、ちょっと寂しいだろうなと思っているだけだ。そしてそんな人のための小話を集めたアルバムが出来ました。まぁ、見つけられたらもうけものみたいなイニシャル枚数だけど、月並みだが一人でも多くの人にこのアルバムが届くことを望んでいる。バンド・マジックなんて幻想だと、昔ある男に言われたことがあるが、バンドじゃなきゃ作れないジャンルは存在するのだ。それは、ロックです。このポップ・アルバムは、まんざらでもないキャリアの5人の音楽家と、その音楽を愛してくれた、プロデューサー、エンジニア、写真家、デザイナー、ディストリビューターそして数人のクルーたちによって作られた、傑作です。是非、後世に語り継いでいただきたい。ムーヴや、デフ・スクールや、オーケストラ・ルナのように。

つづくかもしれない。

*このライナーノーツは8月25日渋谷のNESTで行われた「スラッピィ・スティッキー」のレコ発ライヴで限定配布されたものです。
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